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江戸風鈴の招き猫「黒マル」 伝統工芸品の魅力発信にも一役

風鈴関連ニュース

 東京都江戸川区の住宅街に佇む篠原風鈴本舗は、日本にわずか2軒しかない江戸風鈴の製造工場です。職人たちのマスコットとして、夜遅くまで一緒に作業場で過ごすのが黒猫の黒マル(12歳♂)。東京の伝統工芸品である江戸風鈴の魅力を世に伝えることにも一役買っているのだとか。

【写真】黒猫の「黒マル」、肩書は店長だけど、びびりだから接客は苦手

いつも作業場にいます
 1階の作業場では代表の篠原惠美さんと4代目を引き継ぐ長女の由香利さん、妹の久奈さんが絵付け作業を行う。奥の作業場でガラスを吹くのは3人の職人。由香利さんの旦那さんをはじめ、いずれも男性だ。

「昔から絵付けは女性、ガラス吹きは男性がするものでした」と話す惠美さんの横で悠々と寝ている黒猫の黒マルは、臆病でシャイだけど体が大きい立派な男の子。女性陣に囲まれて絵付けの作業場で過ごすのが日課。男性陣は足音が大きいからちょっと苦手だ。2階は篠原家の居住スペースになっていて、黒マルは久奈さんの部屋のベッドで昼過ぎまで眠り、それから1階に下りてくると絵付けする作業場へ。時に作業が深夜になっても、惠美さんたちのそばを離れることはない。

 黒マルは元ノラ猫。2011年の夏の終わりに、近所で地域猫として可愛がられていた母猫のジャランが子猫の黒マルを連れてきた。

「自宅前の小屋を寝床にしていましたが、冬になって温かい寝床を作ってあげるなど世話をすると懐くようになったんです。それでもジャランはいつの間にか姿を消してしまい、ポスターを作って捜索したものの結局見つからず。2012年に黒マルを引き取り、去勢手術をして家に迎え入れました」と由香利さんは当時を振り返る。

黒マルが来てからは
 由香利さんと久奈さんは子どものころから大の猫好きだったが、惠美さんが動物恐怖症だったこともあり、飼うことはあきらめていた。今は「かわいいとしか言えない」と、初めての愛猫にぞっこんだ。

「動物病院に連れて行くのが私と姉の役目で、先生から診察の最後に『ほかに何かありますか?』と聞かれて、思わず『かわいいです』と答えてしまったほどで」と久奈さんは照れる。目に入れても痛くないとはまさにこのこと。

 とはいえ、作業場で黒マルがいつもいるのは惠美さんのそば。「病院に連れて行く嫌われ役を私たちが買っているから、黒マルはお母さんが大好き」と由香利さんはうらやむ。一方で黒マルを飼うことを最後まで反対したという惠美さんは、黒マルのおかげで今では大の動物好きになったと言い、「人間って、変わるんですね」と笑う。変わったのはそれだけではない。黄色い金運招き猫風鈴の絵付けは惠美さんの担当。「黒マルが来てから猫の画風が明らかにかわいくなった」と由香利さんが言うと、「そうかしら?」と、当の本人にその自覚はない。でも、確かにかわいい。

 夏の風物詩のイメージが強い風鈴だが、江戸時代までは魔除けとしての役割が大きかった。猫もまた、魔除けの存在として珍重されてきた歴史がある。

「猫をモチーフにした絵柄は以前から描いていました。黒マルがウチに来てくれてから、その猫を自然と黒マルに置き換えてる感じ」と話す由香利さんが率先し、黒マルの江戸風鈴を次々と生み出していった。

世界に一つだけの風鈴を
 コロナ禍に「せめて風鈴の中だけでも自由に」と描いた、「黒マル宇宙へ行く」「黒マルハワイへ行く」「黒マル、アマビエと会う」など、限定品の黒マル江戸風鈴は次々と売れた。黒マルをイメージした黒招き猫風鈴も人気商品だ。由香利さんは「本当は売れなくても良いんです。黒マルを描けるだけで満足だから」と言いながらも、黒マルを通じて江戸風鈴を知ってもらえることはやっぱりうれしい。

 風鈴を外に飾るのも難しくなった今。自由な発想で描いた江戸風鈴を、インテリアなど自由に楽しんでもらいたいというのが由香利さんの思いだ。その思いに一役買っているのが黒マルであり、「江戸風鈴の招き猫だ」と3人は口を揃える。2年前に患った慢性腎不全により、病院通いと毎日の輸液剤の注射は欠かせないが、食欲もありいたって元気だ。

「一緒にいられるだけで幸せ。ずっと長生きしてほしい」。それが篠原家みんなの願い。黒マルが見守るなか、思いを込めた江戸風鈴を今日もつくる。「作り手が伝統を守っているのではない。使ってくれるお客さんが伝統を守っているんだ」という先々代の言葉を胸に。

篠原風鈴本舗
東京都江戸川区南篠崎町4 -22-5
TEL 03-3670-2512 営業時間:9:00~18:00 定休日:不定休
https://www.edofurin.com
Instagram:shinoharafuurinhonpo
Facebook:有限会社篠原風鈴本舗

江戸風鈴とは?
 江戸時代と同じ製法で作られるガラス製の風鈴を指し、大正4年創業の篠原風鈴本舗の2代目・篠原儀治さんが名付けたものです。特徴は、すべて手作りなので完全に同じものはなく、形や音が一つ一つ違う点と、内側から絵付けをしている点です。

江戸風鈴ができるまで
①宙吹(ちゅうぶ)き
約1320度に熱した炉で溶かしたガラスの種をガラス管に巻き付け、型を使わずに空中で息を吹き込んで膨らます「宙吹き」と呼ばれる技法で成形します。

②切り落とし
膨らんだガラスをガラス管から切り離し、15~20分かけて冷まします。ひょうたんのような形の上部(口玉)を包丁などで切り落とします。

③鳴り口
口玉を切り離した本体の切り口(鳴り口)を、あえてギザギザを残して砥石で軽く削ります。これにより擦れるような江戸風鈴ならではの音を奏でます。

④絵付け
顔料を油で溶いて色を作り、風鈴の内側に絵付けをします。外側に色を塗るよりもガラスの艶が美しく映えます。最後に振(ふ)り管(くだ)とひもを付けて完成です。

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