手鍛冶工で、兵庫県指定の伝統工芸品「明珍火箸(みょうちんひばし)」の製造で知られる明珍宗理氏が、本年度の文化庁長官表彰に選ばれ、きょう16日に文部科学省で表彰式が行われる。全国から39人(個人)が選出され、兵庫県からは同氏のみが受賞となった。本紙の取材に対して同氏は、「職人としてこれまでがむしゃらに仕事に取り組んできたことを認めていただいたことは大変栄誉なことであり、関係各位に感謝している」と受賞の喜びを述べた。
明珍火箸の製造をはじめとして、長年にわたり手鍛冶工として鍛造技術の保存伝承に携わるとともに、後進の育成に努め、国の文化財保護に多大な貢献をしたことなどが高く評価された。
明珍宗理氏は1942年兵庫県姫路市生まれ。高校を卒業後、父である第51代明珍宗之氏に師事し、20代で「火箸風鈴」を考案。1992年に第52代目を襲名した。
明珍家は家業として800年以上にわたり鍛冶職人の技術を伝えてきた。同家の運命が大きく変ったのは48代目の時で、大政奉還によりそれまでの甲冑師の仕事を止めざるを得なかったため。そこから作り始めたのが、その昔、利休から注文を受けて作ったという茶席用火箸にならって、余技だった火箸を本格的に作り始めた。生活道具として評判をよび、その火箸を風鈴にしたのが宗理氏だ。
日本古来の鍛冶職人としての技を美しい音色を響かせる風鈴は、明珍火箸の名を全国に知らしめることになり、火箸風鈴の澄んだ音色は音楽家である故・冨田勲氏や、スティービー・ワンダーなど数多くの音楽家を魅了した。長年にわたる功績が認められ、2011年には「現代の名工」、2014年には「黄綬褒章」を受章するなど、数々の賞を受賞している。
姫路城のほど近くに位置する工房で作られる製品の大半は、一般構造用圧延鋼材(SS400)やピアノ線材を使用し、最高級火箸は日本刀剣保存協会から特例として玉鋼を使用許可され、究極の音色と言われている。そして12―13年前からは新しい素材としてチタンを使ったものづくりにも挑戦。最近ではチタン製の「お鈴」もその風合いと音色で人気を呼んでいる。
宗理氏の次男である宗裕氏は玉鋼の鍛錬技術を学び、刀工として独立、若き刀匠として活躍しているほか、三男敬三氏はチタン素材のドアチャイムなど新たな製品を生み出しており、技術伝承も着々と進んでいる。「これからは息子達の世代であり、私はその手伝いをする立場になる」(宗理氏)として、次世代の成長を見守っていく。