◇音楽で寄り添い、人と人つなぐ−−江島律子さん(59)
「人と人をつなぐ音楽のパイプ役になりたい」。週3日、倉敷平成病院(倉敷市老松町)など6カ所で、ピアニストの田渕弥幸さん(51)と一緒に、非常勤の音楽療法士として勤務している江島律子さん(59)=倉敷市四十瀬=はこう話す。
専門はバイオリン。演奏家としては「安藤律子」として知られる。音大を卒業後、ビオラ奏者の江島幹雄・現倉敷市立短大学長(65)と結婚。4人の子どもを育て、夫とともに「倉敷ジュニア・フィルハーモニーオーケストラ」「倉敷アカデミーアンサンブル」「アンサンブル早島」を設立し、事務局を預かった。「本物を見る目だけは養えたと思う」
一方、「本物の音楽に触れてほしい」と病院や施設でボランティアで演奏活動をするうち、相手がどういう症状で何を求め、何を提供するか知りたくて、音楽療法を学び始めた。40歳の時だった。同時期に倉敷市立工業高(定時制)の講師を始め、課外活動で生徒たちと弦楽器の演奏会を開いた。忙しい日が続くなか、50歳で乳がんを手術。高校講師を辞め、入院中に論文を書き、日本音楽療法学会認定の音楽療法士となった。
音楽療法は、医師の指示で行う。なぜ認知症の人が子どもの時に聞いた童謡は思い出すのか、なぜ歌にすると、言葉が出やすいのか。「ドクターが納得できるように科学的に実証できる研究がもっと進むと、音楽療法が普及するのでは」と希望している。いろいろな現場を経験し、「死を迎える人にとって、これが最後の音になるかも知れない」と思ったこともある。
「私は立派な演奏家でも音楽療法士でもないが、協力してくれる演奏家とともに、いろいろな場で音楽のコーディネートをして、次代の人につないでいきたいですね」と語った。
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◇音楽療法士
病院や福祉施設などで対象者の状況に合わせて音楽を生かしたプログラムを作り、本来の治療目的を支援する。音楽、医療、福祉と幅広い素養と実践が求められる。先進の米国や欧州では国家資格だが、日本では「全国音楽療法士養成協議会」や「日本音楽療法学会」など民間団体の認定資格。
江島さんによると、県内で勤務している音楽療法士は約20人、専任では5人に満たないという。