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耳鳴り 音楽で…脳 安心させる

 「キーン」「ゴー」などと、実際には鳴っていない音が聞こえる耳鳴り。根本的な治療法は確立されておらず、症状が長引けば睡眠障害などを引き起こし、日常生活にも影響する。大阪市立大病院(大阪市阿倍野区)では、補聴器などから別の音を流すことで、耳鳴りを意識からそらす「TRT」と呼ばれる治療法で効果を上げている。
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 「音の大きさは問題ありませんか」
 同病院のTRT外来。耳鼻咽喉科医員の加藤匠子(57)が、大阪市内の70歳代女性を診察し、補聴器の効き目などを確認した。
 女性は5~6年前、大きなあくびをした際に、飛行機に乗った時に生じるような「キーン」という耳鳴りが起きた。その後も両耳で症状が続いたので、様々な治療を試みた。だが、効果がなかったため、2012年11月から加藤の指示のもと、TRT用の補聴器を使い始めた。
 耳鳴りはストレスや疲労で悪化するので、抗うつ剤やビタミン剤などの薬物療法が行われることが多い。症状が改善しない場合、音が出る補聴器を日常的に装着するTRTが有効とされる。日本では02年頃から普及。同病院では03年からTRT外来を設け、約570人を診察した。
 女性は最初、一般的なTRTで使われる「ザー」といったノイズ音が流れる補聴器を使った。だが、症状はあまり変わらなかったので、リラックス効果のあるオルゴールのような音楽が流れる補聴器に替えたところ、徐々に症状が改善した。
 当初は補聴器を1日に計19時間つけていたものの、最近は12時間ほどに減った。
 「人との会話に集中できるようになりました」。診察後、女性が笑顔を見せた。
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 TRTはなぜ効果があるのか。「耳鳴りの発生や悪化には、脳の働きが関係している。その仕組みを利用しているからです」と加藤は説明する。
 そもそも音は、カタツムリのような形をした内耳の器官「蝸牛」で電気信号に変換され、脳に伝わる。その際、脳は重要度や危険度などに応じて、様々な音から意識に上るべきものを瞬時に選別し、認識している。
 ところが、蝸牛の老化などによって電気信号がうまく伝わらなくなると、脳は足りない信号を勝手に補い、架空の音を意識の中に生み出すようになる。それが耳鳴りとして認識されるという。
 TRTは、耳鳴りと同時に心地よい音を流すことによって、耳鳴り音が「危険ではない」と脳に認識させることを狙っている。
 「耳鳴りを完全に消すのは難しい。だが、時間をかけて脳を安心させていけば、症状は緩和する」
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 耳鳴りは精神状態が症状を左右する側面があるため、TRTでは、補聴器の装着だけでなく、不安を和らげるカウンセリングも同時に行われる。じっくり話を聞くだけで、症状が良くなる場合もあるという。
 診断では、不安やストレスに関する患者の性格面も考慮に入れる。加藤は「感情を言葉に出しにくい人ほど、耳鳴りが起きやすい」と分析した上で、「音楽の力を借りつつ、心理的側面からも治療のアドバイスをすることが大事だ」と指摘する。(敬称略、諏訪智史)

補聴器本体に登録
 TRTは、tinnitusretraining therapyの略称で、「耳鳴り順応療法」と訳される。
 音楽は補聴器の本体に登録されている。音量やテンポは、診察時に専門の技術者が補聴器をパソコンにつないで、医師と相談しながら最適な状態に調整する。
 音楽が流れる補聴器はデンマークのメーカーが2009年から日本でも販売。現在、大阪市大病院を含め36病院が使っているが、保険適用はなく、価格は1台9万8000円以上する。ただし、一定期間レンタルしている病院が多い。

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