涼しげな音色で夏を彩る風鈴。東京都内には、江戸時代から続く伝統的な「江戸風鈴」が伝わる。現在も生産を続ける篠原風鈴本舗(江戸川区)は、伝統を守りつつ、新しいデザインの風鈴を商品化するなど積極的に革新にも挑む。社長の篠原恵美さん(68)は「江戸時代から300年続いてきたものを、後世300年続けていけたら」と語る。
江戸風鈴は「宙吹(ちゅうぶ)き」という江戸時代と同様の製法で手作りされているガラス製の風鈴を指す。同工房の2代目、儀治さんが命名し、現在は篠原風鈴本舗と台東区の工房の2カ所でのみ作られている。
特徴はその製法。宙吹きは、管の先に溶かしたガラスをつけ、空中で息を吹き込んで本体部分の丸い形を作り上げる。そのため、一つとして同じ厚みや大きさのものはなく、音色も一つ一つ異なる。
管からガラスを切り落とす際に生じる切り口の凹凸を残すのも特徴。切り口は風鈴の開口部となり、中央に下げたガラス管とぶつかり音が鳴る。凹凸があることで、管がすべらず音を奏でるようになる。
ガラス製の風鈴は江戸時代中期には出回り始めたという。しだいに普及し江戸末期から明治にかけて広く親しまれるようになった。
篠原風鈴本舗は大正4年に台東区で創業。昭和50年ごろに現在の場所へ移った。かつては浅草寺(台東区)のほおずき市用に風鈴を卸すことが主な事業だった。ほおずきの鉢が約20万鉢売れた時代、その鉢につけられた風鈴をすべて請け負ったこともあった。
だが、しだいに安価な輸入品に圧されるようになった。現在は百貨店などでも販売し、個数よりも品質を優先し、年間2万~3万個を販売している。
近年は、外国人観光客が「江戸風鈴」を名指しで求めることもあるという。また、室内で飾るためのスタンドも販売し、新たな楽しみ方も提案する。
かつて風鈴は魔よけの意味を込めて全体が赤いものが主流だったが、今では透明感のあるものが人気だ。篠原さんは毎年、新たなデザインを考案し、新型コロナウイルス禍では「アマビエ」のデザインを販売し人気を博した。
篠原さんは「生活スタイルが変わっていく中でも、飾ってもらえる工夫をしていきたい」と話している。