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優雅な姿と音色で涼を届ける能作の真鍮製風鈴/富山


まだまだ蒸し暑い日が続くこの季節。暑さを凌ぐには、エアコンや扇風機もいいが、風鈴のような昔ながらの方法も魅力的だ。富山県高岡市にある株式会社能作の風鈴は、現代的なデザインと伝統技術が融合した逸品。真鍮(しんちゅう)の澄んだ音色や曲線美などで人々を魅了している。
仏具に使用されてきた素材が伝統技術を活かした風鈴に
能作が本拠を置く高岡市は、富山県の北西部に位置する。高岡の町は、17世紀初頭に加賀藩の2代藩主だった前田利長によって開かれた。間もなくして、彼が町の産業振興のために7人の鋳物師(いもじ)を招いたことから、400年以上続く高岡鋳物の歴史が始まることに。今日では、国内で生産される銅器のほとんどが高岡で作られている。
能作は、この地で1916年に創業して以来、伝統の鋳造・加工技術を受け継ぎ、仏具や茶道具、花器などの生地の製造を担ってきた。現在では、インテリア雑貨やテーブルウェアのメーカーとしても知られている。同社がオリジナル製品の開発を始めたのは2000年頃のことで、風鈴もそのひとつとして登場した。
能作の風鈴は、銅と亜鉛の合金である真鍮を用いていることが特色のひとつ。風鈴の素材としてはあまり馴染みのなかった真鍮だが、音色が美しいことで知られ、仏具製造が盛んな高岡では、おりん(棒で打ち鳴らして使用する仏具)の素材として長らく使われてきた。
ところで、同社広報の谷直輝さんによると、真鍮の音色を活かした製品として、最初に生まれたのは風鈴ではなかったそう。同社がオリジナルの製品開発としてまず取り組んだのは、2001年に発売された真鍮製のハンドベルだった。
「真鍮の澄んだ音色とのびやかな余韻は日本人の感性に古くから馴染みのあるもので、その特性を生かしたハンドベルでした。しかし、販売数は伸び悩みました。そうした折、セレクトショップの店員から『風鈴にしてみては?』というアドバイスを受け、翌年、風鈴に作り替えて販売したところ、多くのお客様に手に取っていただき、ヒット商品になったんです」(谷さん)
日本にはハンドベルを使う習慣が浸透していなかったのに対して、風鈴は日本の夏の風物詩。風鈴に切り替えたことで、飛躍的に販売数が伸びたそう。この経験から、能作では製品開発において「素材とデザイン」というキーワードが確立。素材の特性を生かしながら、製品を展開する国・地域の文化に根差し、適正なデザインを見出していくことを大事にしているという。
熟練の技が際立たせる金属特有の美しさ
発売から十数年を経て、今では能作の代表商品となった真鍮製の風鈴。その製造過程では、高岡の地で培われてきた鋳造・加工技術が応用されており、ほぼすべての工程が手作業で進められる。
まずは、高岡で盛んに行われている「生型鋳造(なまがたちゅうぞう)」によって成型される。
「生型鋳造は砂を用いた鋳型に、溶かした金属を流し入れて形を作ります。風鈴は型に流し入れたあとしばらく置いて冷ましますが、この冷ます時間の長さによって、同じ形でも余韻の長さに違いが表れるのも鋳物ならではの面白さです」(谷さん)
鋳造で形を作ったあとは、旋盤加工機を使用して表面を削る作業へと移る。この削り方によっても音色が変わるそうだ。そして、仕上げに行われるのは「ろくろ」と呼ばれる工程。
「熟練の職人により、金属特有の美しい表情が表現されます。これはヘアライン加工と呼ばれ、高岡で作られる仏具、花器、茶道具などの器の多くがこのろくろ職人の手によって仕上げられてきました」(谷さん)
伝統を受け継ぐ職人の手によって、素材、形、音色などさまざまな美しさが最大限に引き出されて、風鈴は完成する。そして、伝統技術が活かされている一方で、その姿は現代的な雰囲気に満ちているのも能作の風鈴の特色だ。
「スリム」「オニオン」「ホルン」は、現社長の能作克治氏がデザインしたもの。洗練されたデザインのこの3種類こそ、当初ハンドベルとして製造され、風鈴へと転換されたものだそうで、現在では風鈴の定番アイテムとなっている。カラーは真鍮にクリアコーティングしたゴールド、 銀メッキのシルバー、銅メッキのピンクゴールドの3色がそれぞれ展開されている。
この他の風鈴は外部デザイナーのアイデアを活かした製品も多く、一部は社内コンペで社員のアイデアを起用したものもあるそうだ。
「rin」は、安次富隆氏によるデザインで、水滴をイメージしたもの。水滴のような曲線美としっかりとした音色を両立するため、試行錯誤の末にこの形にたどり着いたという。カラーはシルバーとブラックニッケルの2色で、素材の美しさを活かすべく、ミラー仕上げが施されている。
カラフルな短冊がぶらさがったこれらの風鈴は「富山もよう」シリーズの製品。「富山もよう」は、テキスタイルデザイナーの鈴木マサル氏がさまざまな富山の魅力をテーマにデザインしたオリジナル模様で、「富山もよう」プロジェクトとして多分野で展開されている。
能作とのコラボレーションでは、定番デザインの風鈴に「富山もよう」を用いた短冊が合体。富山湾の海の幸や豊かな自然が生み出す水、県鳥でもある雷鳥などをモチーフにした短冊が涼しさを倍増させている。
軒先で音色を響かせるだけでなく、インテリアとしても楽しみたい人には、「風鈴スタンド」もおすすめだ。スタンドフックに風鈴をかけるだけでよく、これがあれば、好きな場所でいつでも風鈴のシンプルで美しい姿や、余韻も素敵な真鍮の音色を鑑賞できる。
なお、能作の風鈴は、全国各地の直営店や百貨店、セレクトショップなどで購入でき、公式オンラインショップでは、それぞれの風鈴の音色を動画で視聴することも可能だ。自宅やオフィスで優雅な音色を響かせて、残りの夏を心地よいものにしてはいかがだろう。

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